第6章
母集団が50件未満の場合の監査上の取り扱い
(※ここは統計より監査哲学が前面に出る章です)
6-1. 結論を先に言うと
母集団が50件未満の場合、
属性サンプリングは『使えない』のではなく
『使う合理性が乏しい』
これが、監査実務・当局・監査法人で共有されている立場です。
6-2. 「50件」に数学的な境界はあるのか
結論
👉 厳密な数学的境界は存在しません
- 49件と51件で確率論が急に変わることはない
- 二項分布・超幾何分布上も不連続点はない
6-3. では、なぜ「50件未満」が特別扱いされるのか
理由は統計ではなく監査合理性です。
① 抽出率が急激に高くなる
例:
- 母集団 40件
- サンプル 20件
👉 50%を直接確認している
このとき:
- 「推計」より
- 「直接確認(精査)」の方が
- 合理的保証が高い
② 有限母集団補正が“効きすぎる”
有限母集団補正は:
抽出割合が高いほどサンプル数を減らす
ところが母集団が小さいと、
- 初期サンプルが10数件
- 拡大しても20件程度
になり、
👉 統制評価の説明として弱くなる
③ 統制評価は「1件の意味」が重くなる
母集団30件で:
- 不備1件 = 3.3%
- 不備2件 = 6.7%
この世界では:
「サンプル誤差」より
「不備の性質そのもの」が重要
になる。
6-4. 当局・監査法人の実務スタンス(重要)
多くの実務基準では、次のように整理されています。
実務上の目安
| 母集団規模 | 推奨手続 |
|---|---|
| ~30件 | 原則:全件精査 |
| 30~50件 | 原則:精査/例外的に試査 |
| 50件超 | 試査が合理的 |
※これは監査基準書に明記された数値ではなく、
レビューや当局説明で「通る」整理です。
6-5. 小母集団で「試査」を使うならどうするか
やむを得ずサンプリングを使う場合:
① 形式的な属性サンプリングは使わない
- 25件ルール
- 17件拡大
→ 適用しない
② ストップ・オア・ゴー型に近づく
例:
- 10件抽出
- 不備0 → 有効
- 不備1 → 全件精査 or 統制再評価
6-6. まとめ
母集団が小さい場合、
統計学的サンプリングは理論上適用可能であるが、
抽出率が高くなることから、
統制有効性の判断は推計より直接確認に基づく方が
合理的保証を高めることが多い。このため、実務上は母集団が50件未満の場合、
精査または停止型手続が選択されることが一般的である。
6-7. ここまでの全体整理(重要)
数学 vs 監査の境界
| 観点 | 統計 | 監査 |
|---|---|---|
| 無限母集団 | 成立 | 成立 |
| 有限(100〜) | 補正で成立 | 成立 |
| 有限(50以下) | 成立 | 合理性なし |
👉
監査は「計算できるか」ではなく「説明できるか」
6-8. この章の結論
- ✅ 「50件」は数学的境界ではない
- ✅ 有限母集団補正は50件未満では意味を失う
- ✅ 小母集団では精査こそが最も強い監査手続
- ✅ 25件・17件のロジックは適用しない


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